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大阪高等裁判所 昭和35年(く)79号 決定

少年 R(昭一六・五・一三生)

主文

本件各抗告を棄却する。

理由

本件抗告理由の要旨は、少年本人において、少年は昭和三十五年六月二十一日奈良少年院において法務教官黒田一雄に対して傷害を加えたという疑いで審判に付せられ特別少年院送致の決定を受けたのであるが、少年自身は退院も近いことであり右事件には全く関係していないのであつて、右決定は一方的な調査にもとずき少年自身の申し分も聞くことなくしてなされたものであるから不服であり再調査を求める、というのであり、少年の父において、少年は平常からグループの中では素行もよく、又リーダー格をしていて信頼されており出所の時期も近いことであるから、かかる不祥事件を起すことは到底考えられぬものであり右決定は不当である、というのである。

しかし、本件記録を調査すると、原決定記載の非行事実は優にこれを認めることができる。すなわち、右記録によると、少年は、K、T、A、M、Hらと共に奈良少年院に収容されていた者であるが、Kを除くその余の少年らはかねてから屋外作業の機会に煙草の吸殼を拾い集めこれを分け合つて喫煙していたところ後記本件非行の二、三日以前からその機会がなく、いずれも甚しく喫煙を欲求していたところから右少年らは昭和二十五年六月二十一日同院第一学寮通称南下寮においてテレビ視聴の時間を利用し法務教官黒田一雄を一室に誘導して煙草を獲得しようとしたがその機会を得なかつたので、同教官に毛布をかぶせて暴行を加えその機会に煙草を獲得しようと企てなお右の騒ぎに乗じて同教官の持つている鍵を奪つて同少年院より逃走しようと考えた前記Kも共に共謀のうえ、同日午後八時半頃少年において同教官に対し「テレビの調子が悪いから一寸見てくれ」等と申し向けて同寮第六室のテレビ室に誘い入れるやKは用意の毛布を同教官の頭からかぶせ、さらにK、T、A等は同教官の首を絞め、殴る蹴る等の暴行を加え、よつて同教官に対し治療約一ヵ月を要する胸壁打撲傷、歯冠破損等の傷害を負わせたことが認められる。原裁判所が右非行事実を認定するに当つては少年の陳述も十分に聴いているのであつて、決して一方的な調査によるものでないことは本件記録に徴しきわめて明らかである。そして本件記録および添付にかかる少年調査記録を調査すると、少年は昭和三十四年十月一日大阪家庭裁判所において中等少年院送致の保護処分に付され奈良少年院に収容されたが院内での生活態度不良で粗暴な振舞も多く次第に収容少年間での主導的地位を獲得し同年十二月七日には同院を集団逃走し、その途中同僚と窃盗事件を起したりした後友人宅を転々として昭和三十五年一月九日に同院に連れ戻されたのであるがその後も矯正困難で収容少年間では隠然たる勢力を持つており、本件非行についても全面的に否認しているが、主謀者の一人として重要な役割を果しているものと認められるのであつて、その情状はきわめて悪質であり改悛の情は全く認められないのである。したがつて、少年に対しては開放的処遇を主とする中等少年院において矯正することは甚だしく困難であり、又本件非行が他の収容少年に与える影響の大きいことを考えると、現状のまま中等少年院において補導を継続することは適当でないのであつて、むしろ特別少年院において個別的治療教育と厳格な団体的訓練とを併せ施すことが少年の福祉に合致するものと認められる。

以上の理由により、原裁判所が少年に対して特別少年院送致の決定をしたことはまことに正当であるといわなければならない。本件抗告はいずれもその理由がない。

よつて、少年法第三十三条第一項、少年審判規則第五十条に従い主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 奥戸新三 裁判官 塩田宇三郎 裁判官 青木英五郎)

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